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Ken's Caf'e

気ままにAdaltyなことを綴りたくて……
 Mocha
 2008年06月28日 (土) 19:43:58

1.
雨が降ってる。
午後の3時。
客は…いない。
向いの八百屋の猫が段ボールの上で欠伸をかいてた。
そろそろ…店を閉めるか……
そうマスターは思っていた。

鈴が鳴って
店のドアが開いた。
紺色のワンピースを着た髪の長い美女が入ってきた。
「ごぶさた…」
少し伏せ目がちに
髪を耳にかきあげながら彼女が言った。
「モカっ!」
「ご・ぶ・さ・た」
「ほんとうだ…いらっしゃい」
久し振りだ。
「へいき?」
傘を閉じながら彼女が聞いた。
「今日は暇だからもう閉めようと思ってた」
「そう…」
「でも…少しならいいよ」
「ありがとう」
「Mocha…でよっかった?」
「ええ」

彼女はMochaしか飲まなかった。
ずっとまえから
はじめて店に来た時から
彼女の注文はずっとMocaだった。

名前なんて未だに知らない
ある日聞いたことがあったっけ
そしたら僅かな沈黙のあと
「あたしはモカ」と笑って誤魔化した。

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ありふれた世間話のあと彼女は外を見た。
人通りが少ない。
寒いせいかもしれない。
雨が店先の紫陽花を濡らしてる。
あいかわらず
向いの八百屋の猫が段ボールの上で欠伸をかいては寝返りをうった。

2.
長い沈黙の後
「彼と…別れちゃった」そういって彼女は笑った。
「え?」
「マスターが言ったとおりになっちゃった」
「え…」
「あたし…やっぱり彼を縛ってたみたい」
「………」
「女の人つくって出てちゃった」
「………」
「美人でもブスでもない…ごくごく普通の人」
「………」
「顔とカラダには自信あったから…ショックで…なんであんな女にって…かんがえちゃった」
「………」
「彼がね…出てゆくとき…言ったんだ」
「………」
「俺は浮気美人のお前と一緒になりたかったわけじゃないって」
「………」
「あたし…料理…下手でしょ」
「ああ…確かに」
「あらぁ…たまに口を開いたら…ひっど~い…ふふ…今の彼女…家庭料理が…うまいって」
「そうだろうな…飯がうまければ男は家に帰ってくるもんだ」
「ふぅ…そういうもんかしら」
「そういうものだ」

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窓の雨は
降り続いてる。
時折顔馴染みのご近所さんがマスターに会釈し
マスターもそれに応えている。
BGMはビリー・ヴォーンの「真珠貝の唄」が流れて
やがて「峠の我が家」に変わってゆく。
実に心地よい。

3
「おまたせ…本日最後のMocaだ」
「ありがとう」
「うむ」
「バチがあたったんだね…」
そう言ってカップに赤い唇をつけた。
「ふぅ…おいしい…」
「そっか」

雨が…小降りになってきた。
「ねえ」
「なに?」
「まだ…ひとり?」
「どうして?」
「中古だけど…あたし…いらないかな…とおもってさ」
「いらない!」
「早っ!はやすぎだよ~」
「美人はトラブルの元だしMocaみたいな奔放な女は疲れる」
「ふふ…そうだよね…疲れちゃうんだよね」
そういいながら
カップを飲み干した。
「ごちそうさま」
「うむ…」
「あ!雨あがったね」
雨はやんでいた。
微かに空が明るくなってきた。
向いの八百屋の猫が段ボールの上で眠そうな顔をして通りを見てた。

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4
「じゃあ…帰るね」
「うむ」
「あいかわらず慰めてくれないのね」
「苦手だ」
「マスターらしい」
そういいながら席を立ち髪をかきあげながら
レジに向かう。
彼女は財布を出そうとする。
其の手を押さえて
「おごり」マスターが言った。
「え?」
「流石に失恋の話を聞かされて金はもらえない。」
「ごめんなさい…」
「また…恋すればいい」
「うん…でも…」
「でも…」
「東京は…もう…いいわ…田舎に帰る」
「え?」
「いろいろ…ありがとう」
「ちょ…ちょっとまて!いつ帰るんだ?」
「今夜」
「え?」
「最後にここのMochaが飲みたかったから…」
「そうか…帰るか……」
「じゃあ…」
「うむ…元気で」
ドアを開けて振り返ってマスターをみた。
喜怒哀楽の入り混じったような不思議な顔で
無理矢理笑みをつくり「さよなら」といって
ドアをしめた。
……………静寂が店内を支配した。

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彼女の飲んだカップをかたづけようとした。
縁に少し赤井いルージュがついていた。
それをみつめながら深い溜息をついた。
いつのまにかなんとも言えない彼女の甘い香水の香りが
店内一杯に漂ってるのに気がついた。
ふふ…笑みを浮かべながら
「やれやれ…」と呟いた。

5
Mochaは通りの真ん中で立ち止まり空を見上げていた。
大きく息をして
少しだけ微笑んで「よし!」とひとり頷いて
駅に向かって歩きだした。
「モカ!」
背中で声がした。
振り返るとマスターが立っていた。
「忘れものだ」
そう言って傘をさしだした。

「あ!ごめんなさい…ありがとう!かっこわるいね…てへへ」
「いい女がかっこわるい」
「も~~~」
「そういえば…Mocaに言い忘れたことがあった」
「え?な…なあに?」
「アルバイトが辞めて困ってる」
「え?」
「愛想のいい女の子を探してる」
「どんな?」
「Mochaみたいな気持のいい女の子がいい」
「え?…」
「誰か紹介してくれないか?」
「ええ…」
「住む所がないなら紹介してやる」
「え?」
「海岸通り1丁目の南風荘だけど」
「そこって…マスターんちじゃないの?」
「さあ~どうかな…とにかく…困ってる。誰か知ってるか?」
「ええ…」
「心当たりがあるのか?いい子か?」
「あたしから見ればちょっと問題ある子だけど…ホントは寂しがりやで優しい子」
「そうか!じゃあその子で決まりだ!紹介してくれ」
「ちょ…ちょっと…待ってね!」
Mochaはちょっと考えて
ケータイを出して電話をかける…ケータイをしまうと
持ってた傘を広げ上半身を隠してくるくるとカラダを回転させ
そして傘をあげた。

kcf080628-05.jpg
「Mochaさんから紹介された…上野麻子です」
「え?上野…麻子…さん?」
「はい…」
既にMochaは半泣きだ。
「上野さん」
「はい」
「明日から来てくれるかな?」
「こんなあたしで…いいのでしょうか?」
「Mochaの紹介なら間違い無い」
マスターの優しい目があった。
「実はマスター…実はあたし今夜泊まるところがないんです」
「え?あ!そうか…じゃあ!今夜から…きてくれ…」
「え?いいんですか?」
「もちろんだ…ただしお給料は明日からので計算します」
「は…はい…けっこうです」
そう言いながら
Mochaはマスターに抱きついた
「マスター…マスター…あたし…あたし…」泣いて言葉にならなかった。
「ばか…泣くな」
「よろしく…おねがいします…」
「こちらこそ。よろしく上野…麻子…さん」

6
Mochaを抱きながら空を見上げた。
いつのまにか空は晴れ渡り
少しづつ夕焼けに染まっていった。
Mochaを強く抱きしめ赤いルージュに唇を重ねた。

向いの八百屋の猫が段ボールの上からじっと二人をみつめて
そしてまた欠伸をかいて……寝た。
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 COMMENT

  Title...なんだか…  b y 苺★
とっても微笑ましくて素敵なお話でした(*^-^*)
こんな子猫ちゃんがKEN'S BARに訪れる事を待ってるんでしょうね?KENさんは(笑)

2008.07.01 (22:20) * URL [EDIT]
  Title...  b y Ken
ははははは^^図星です。
実はこれ
10行ほどのショートショートの筈が
なんか指がノッて
こんなになっちゃいました。
2008.07.02 (02:21) * URL [EDIT]

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